一つの小さな約束。

いつも一緒にいたわけじゃなかった。家も近くなく、無二の親友というほどの時間は過ごしていなかった。でもなんとなく、グループを作るときは一緒になった。

彼女はいつもふわっとしたいい匂いがしていて、光に当たると少し茶色く見えるくせ毛を気にしていた。
髪型も校則で厳しく決められていたし、整髪料なんてもっての他だったから、おかっぱ頭でくせ毛のわたしたちはなす術がなかった。いつもストレートな髪質に憧れていた。
見た目こそ色白でふわふわとしていたけれど、ハッキリした声でしっかり話し、彼女はよく、はははと大きく笑った。

ふとした会話の中で彼女と、お互い文房具が好きだということがわかり、買いに行こう、という話をした。来週。約束ね。
かわいいペンを、ノートを買ったとしても、学校に持ってきてはいけないのだけど。

学校で、ラジオを作る授業があった。そのラジオは組み立てたあと、持って帰っていたけれど、別に聞くこともなく放置していた。そのラジオから、知らない人の声で何度も、彼女の名前を聞くことになるとは思ってもみなかった。

死者の名前を読み上げるラジオをずっとずっと聞いていた。地名と、名前。すぐそこの地名、名前。聞きながら眠った。かたいラジオを枕にして眠った。

彼女の名前を聞いたとき、あ、文房具買いにいけないんだ、と思った。約束したのになぁ。

友達と、会いに行った。色白の彼女はますます白く塗られて、口紅をしていた。彼女のお母さんは、顔は綺麗だったの、と言った。化粧をした彼女は別人のようで、私は彼女が死んだと認めないことにした。あれは違う人だよ。

彼女の名前は今も刻まれている。何度も指でなぞった。

約束をしなければよかった?同じクラスにならなければよかった?出会わなければよかった?

愛する人を失っても、出会ったことを、愛したことを後悔はしない。自分のしてしまったことには後悔したとしても。愛することを、人と関わることをやめたりしない。

彼女が髪の毛を伸ばした姿が見てみたかった。きっときれいだっただろうな。

また、約束をしよう。

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