「いつもその格好を?」
と聞かれ、瞬時に考えを巡らせる。
いつもこの格好をしているわけがない。さすがにうちにも洗濯機くらいある。洗濯機がないように見えるのだったら問題だ。どうしよう。人生を見直したほうがいいのかもしれない。
前に会ったときこの格好だったのだろうか。偶然にも。前に会ったときの服装が思い出せない。そもそも会ったことあったっけ?あんた誰?わたしは誰?ここはどこ?逃避している場合じゃなかった。
なんの気なしに、聞いてきたのだろうか。わたしの服のワードローブはそんなに少なく見えるのだろうか。それはつらい。いやしかし、どうしてこう嫌味にしか取れないのか。私は性格に問題があるんじゃないのか。
さて、背景はともかく、とりあえず何か答えないといけないだろう。それが会話というものであり、私は一応一般常識を心得ているつもりの大人な年齢であるからして、何か声をもって反応しなくてはならない。
可能性を考えてみる。はいと答えた場合私はどういうことになるのだろうか。不潔のレッテルを貼られることになるのだろうか。それで先々困ることがあるのだろうか。不潔な人より清潔な人の方がいいに決まっているのだし、これから生きていくにおいて、不潔な人というレッテルを貼られた人生はあまりいい印象ではない。すぐに死ぬとしても不潔な人だったと言われるのはいただけない。
それでは、いいえと答えてみてはどうだろう。いいえと答えた場合、その先に続くものが必要となってくる。いつもこの格好なわけないんです、何でそんなこと聞くの、私がいつもこの格好なわけないでしょう、明日は違うはずだ、何なら明日またあなたと会って証明してもいい、よし、またこの場所で明日何時に約束を
激昂してしまった上にデートのお誘いのようになってしまった、これはまずい。相手は、いつもこの格好を?なんてあり得ないことを聞いてくるくらいだから、もしかしたら結構コミュニケーションに問題を抱えているのかもしれない。それなのに、こちらが怒ったりしては…一般常識を心得ていると自負する私が私たることに疑問を感じるようになり、きっとあとで罪悪感に苛まれるに違いない。
ここまで2秒。
私は、
「あ、いや、まあ…。」
と答えた。